私の叔母が老人ホームに約10年間おりました。

家が近所だった事もあり入所当初から月に一度は顔を見に出かけました。

 

叔母は入所当初70歳でした。

取り立て体が不自由なわけでもなかったのですが、生涯独身を通し身寄りも私以外ほとんどないため、いつ何時倒れて孤独死するかもしれないと考え、自分の意志で入所しました。

 

叔母は気丈な性格で、それまで住んでいた家にも何度も訪れた事があるのですが、ホコリひとつ落ちていないとてもきれいな部屋でした。

そこで少しばかり話をして、いつもワインを一杯頂きました。

 

さて、入所を見届けてからちょうど一か月がたったため、2度目の訪問に行きました。

受付で叔母の面会だと告げると、職員の方が少し曇った顔をしました。

そして叔母の部屋に入ると目に大きな眼帯をしているのです。

 

叔母ちゃん、目が悪くなったのか?

 

そう聞くと叔母はベッドの上で顔を横に振ります。

見ると眼帯の周りが少し青くあざになっています。

 

殴られた

 

叔母は小さな声でそう言いました。

理由を聞くと、詩吟の練習の声がうるさいので練習場所に怒鳴り込んで逆に殴られたとの事。

 

私はもう一度受付に戻って職員に詳しく状況を聞き、また叔母の部屋に戻りこう言いました。

 

叔母ちゃん、ここは皆で暮らすところだよ、まずは仲良くするのが一番だよ

 

次の月、叔母の眼帯は取れており顔をすっかり腫れが戻っていました。

叔母は私の顔を見るなり

 

私も詩吟を歌ったら自分の声でうるさいのも分からん

 

そう笑って言いました。